解無し

大学3年生の冬




一つでも単位を落とせば留年という状況下、プレッシャーを感じつつテストを受けていた。



その日は神経理学療法学という科目で、簡単に言えば脳に異常が生じて麻痺がある人にどうやってリハビリするかみたいなのをいろいろ考える科目




僕はこの科目がとても好きだったので、「優」の成績をとるべく試験を受けていた。



順調に解き進める中、選択問題に突入。稼ぎどころだ!!気張ろう。




一問、二問、、、、難なく解き続けた。




問題は最後の問いにあった。




選択肢に答がない。



正確に言えば、「誤っているものをすべて選べ」みたいなのだったので、正しいものしかない。



寅吉、困惑。




さすがに普通のテストで「解なし」みたいなことする・・・?



仮にも留年がかかっている試験で・・・?



こういうときはどこかうろ覚えのところを書いておけばいい、まぁ二点くらい落としても・・・



しかし寅吉、このテストを作っている教授の、今迄の言動の数々を思い出す。



「僕が死にそうになったときは、そっとしといてください。だって君らみたいな理学療法士にリハビリされたくないもん。死んだほうがいいよね」


「昔、猫の大脳を取り除いて歩かせる実験やったんだけど、掃除機で大脳とるんだよね。」




あの笑顔で発せられたサイコパス発言の数々・・・




あの教授ならやりかねない、「解なし」という「解」




人生最後の期末試験、知識の範囲外で行われる無言の心理戦・・・




この問題が不正解でもおれはこの試験には落ちないだろう・・・




だが、この問題を解けねば俺はあのサイコパスに負けること同義っ・・・




敗北者っ・・・!下僕っ・・・!奴隷っ・・・!




寅吉、思考を巡らせること10分っ・・・




最終的に「解なし」と記入・・・!




しかし、これは「自分の知識を信じた」ゆえの「解なし」の記入ではない



この問題に関して「解がないかもしれない」と疑う知識があることは、教授との心理戦に挑むための前提条件に過ぎない・・・



なによりも寅吉は、「あのサイコパスはこういうことをやり、俺らの事をあざ笑うだろう」という``サイコパス教授への信頼``




俺が信じる、教授を信じた結果の回答・・・!




勇気の 「解無し」!




最後まで悩んだところで試験終了の合図、高度な心理戦に幕が下りた。










結果的には「解無し」が正解であった。



しかし、それはわざとおこなわれたことでは無く、ただ単純に作り間違えたからという理由であった。



しかし寅吉、高度な心理戦に勝利、これのおかげでギリギリ80点の「優」ラインに到達。



たかが二点、されど二点。心理戦を経た上で勝ち得たこの2点は、どんな100点満点よりも価値のあるものとなり、心に刻まれた。











ちなみに寅吉がこの問題を正解してしまったせいで「不適切問題」にすることが出来ず、59点となり再試験を受けざるを得ない奴らが少しだけ増えたそうな。増えなかったそうな。










以上。

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